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CD「紅花林」ボーカリストによる録音回想録


紅花林の録音、丑三つ時に会いましょう?

今から思い起こすと、あの野外での録音、あの魔法の時間は何だったのだろう。バランスの欠けてる部分が、森に抱かれて、自然の樹液みたいなものですっかり補われ、私たちの共同体としての生命が完全となり、実におもいしろい作品ができあがった、のであ〜る。

さて、野外スタジオとして選ばれたのは、とあるコンクリートな巨大建造物。そこでの共鳴音は時折予想もつかないものになることもあった。そこには人々が寝静まったころ、エアガンで戦争してる人たちもいた。そんな空間で、深夜、丑三つ時、時折は雨の中、夜な夜なことは進められていった。

い)深夜に叫ぶ女
私は大きなボール紙をまるめたメガホンを持たされて、壁に向かって絶叫した。頭がくらくらとするほど繰り返したぞ。演説、叫び、怒りを込めて狂人のように、恥ずかしいぞ、でもいつの間にかきもちいいぞ。呑気なメンバーはバトミントンに興じる。時折は、エアガンの爆発音や、カラスの雄叫びを避けながら。何も知らずに眠っていた同じ時間に、山にはとっても妖しい人々が出没することを知った貴重な体験だった。

ろ)雨の中で石を擦りあわせる男
なんといっても今回の作品の様相を決定づけた場所は、和歌山の山中だ。廃校になった小学校を借りておこなわれた。大阪から一番遠い日本といわれるだけあって、とてつもなく時間をかけて行った。途中だんだん夜になって、谷間の村を通過するとき、わたしは強烈なデジャブを感じた。そうそう、それは地獄の黙示録の谷だったのだ〜。この人里離れた山中で、またもや、奇行は繰り返される。ふう。

は)オルガンの男
オルガンは壊れていた。蛇腹が裂けていたのだ。足踏みって音の風合いがいいよね、でも壊れてるんじゃね。いくら踏んでもすうすういうだけだしねえ。いやいや大丈夫だよ、たんさんとあーりーがオルガンの下に寝転がって踏んで、ミックが鍵盤を弾きなさい。え?え〜っ。下半身は激しく小刻みに踏み続けながら、上半身はゆったりと至福の世界を漂う。そんな奇妙な演奏方法が、あなたはどの部分かわかりましたか?

に)摺り足で近づく男
拍子木をたたきながら背中を丸めて、三方から回り込みながら、そっと氏に近づいていく。だめだめ、そうじゃなくて、もう少しこっち廻って。どっちもあんまし変わらんような気もするんですけど。魔物に憑かれて夜の中を徘徊する。

ほ)ピン球の素朴
幾重にも折り重なった重厚な音世界、ほんと、重厚、そんなときふっと全身の力が抜けた。ピン球の汚れない音はかわいいっすよ。でも思い通りにならないんだよね〜、もどかしいねえ。

へ)深夜に樽をたたき続ける男
そこはみその産地である。運動場の中央に放置されたみそ樽に雨水がたまっていた。深夜、姿を消した氏は、ひとりでみそ樽をたたき続ける。たったひとりでたたき続けながら、テープを回す。山あいに木霊するみそ樽。なんともいえず深淵な時間が暗闇を突き抜ける。うつくしい。誰か、手伝わんかい。

世界のあらゆるものが、あの人のもとでは異界を表現する道具に生まれ変わる。狂ったように襖障子を揺り動かす、夜行動物のようにすり足で、拍子木をたたきながら夜の中を徘徊する。とても白日のもとでは行えない狂人日記。
こんなふうなものたちを絡み合わせて強烈で精緻な世界が構築された。そして出現したのものが、今、あなたのところにある。ぱちぱち、さあ早速聴いてみよう。



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