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わたしたちが来るまでこの部屋は廃屋のようだった。

カーテンは塵になり、イスは板切れになり、空間は虚ろで満たされていた。

そこには懐かしいが、むせるような圧迫もかすかに残っていた。


それがいつかこの箱ごと、この中にいる人を全部のせたまま、そのまま世界になっていたのだ。

皆の愕き、全員のとまどい。

当然のように箱に入ってくる、大量のメシアたち。

彼らは勝手にふとんをひろげて寝る。

箱の中にいる女たちは出口で防寒用の布切れを一枚ずつもらって外に出ていくのだ。

どこで、そんな申し合わせがされていたようなスムーズな入れ替え。

戸惑いから諦めへといや応なく静かに移行していく。

この箱の中にいた5人の女。

外に出てうしろを振り向くと、透明の箱はぐらりと揺れてうしろに落ちた?、のか、消えた。

切迫したチャルメラの笛だけがどよめきに混じってつづいている。

どこのどよめきかもまだわからない。

漠然とした空間全体を満たす焦りのどよめき。

気持ちはかりたてられる、直射の日光と、砂塵。

1984年、初めの5人が迷い人をさがしていた。

2人は去り、2人が現れた。

そして今もまだ探している。

いくつかの宝を探し当て、いくつかのものを失った。

幻影と共に消え去るべきものは消え去った。

あの晩は、ちょうど祭りだった、のだと思う。

夜中まで続くお祝いの歌に誘われて、ガートまでいってみると、白い装束の人がいっぱいだった。

少年が鐘をたたいて宙をあおぐ。

観客は、食い入るように見つめている。

香と音楽と異様な空気で、少し気が遠くなる。

1986年、人たちは新しさを知る。

壊して、また創る、生まれたての世界に分け入るときのおびえを振り払う。

でも、またそれは起こった、目がさめると天にそびえるシカラが、乳房か・と思った。

日がのぼり、入り口の石に陽光がおちてシカラが大きくふるえる。

ぼくの震撼とするとき、いつも光だ。

しずくがはねかえって、カーリーが踊った。

あーあ、またここからも離れられないのか。

1992年、森から来た人と会う。

ゆっくりと牛が歩く。

心の傷をなめるように。

白い雲のようにやわらかくあいまいな、そうしてわたしたちの宿命的疲れは癒され、また夜がひとつ終わる。

深い森の中に溶けるように。

森、森、そこには音があった。

その音は確かに聞こえていた。

わたしの音を混ぜるとどうなるだろう、抑えきれない好奇心を抱いて、入っていく。

そこはひとつの回転する箱だとなんとなく気がついていた。

そこは空想でなく、ほんものの音がつまっていた。

喜びながら音を拾い集める。

いくらかこぼれ落ちてしまったけど、微かな、しかし霊妙な響きが残った。

深い満足と共に世界に差し出してみる。

あなたに気づかれるために。

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